多くの人が子どもの時、自分にとって大切なおもちゃやぬいぐるみがあったはず。
おもちゃは空いたお腹を満たしてはくれないし、痛む傷を治してもくれない。
でもおもちゃは、楽しさや安心、はかりしれない想像・創造をあたえてくれる。
戦火から逃れてきたシリア人家族は、自分の家から最低限のものしか避難先へもっていかれません。
生活必需品や衣類、避難先にたどり着くまでの食糧、各種IDすら、万全に準備して、今にも破壊されそうな家から逃げ出すことはできません。
子ども達にとって、また家族にとって、おもちゃが優先的に持ち物に含まれることはないでしょう。
家屋も日常品も食糧も、すべてが最低限の毎日を送るなか、教室設置前の村を訪ねた時に、小さな女の子がうさぎのぬいぐるみを持っている姿をみかけました。
そのピンクのうさぎはだいぶ砂土に汚れ疲れていて、女の子の小さな手から、だらんとぶらさがっていました。
笑顔もなく頑なな表情の女の子の手に、しっかりと握られていたうさぎ。
その存在の大きさが、土埃が巻く村で光っているのが印象的でした。
その女の子も、クラスが始まってからは満面の笑顔を見せ、スタッフともからかって遊ぶように。
いつの日か、あのうさぎをみることはなくなったけれど、あのとき、うさぎが彼女のこころを少しでも守っていたことは確かでしょう。
食糧や越冬支援物資が必要なのはもちろんですが、子ども達のこころを暖める一助として、村に住むシリア人の子ども達にぬいぐるみ“ハッピートイズ”の配布を開始しました。
提供いただいたのは、兵庫県にある通信販売会社フェリシモ様です。以前にも、500色の色えんぴつやカラフルな積み木をご寄贈いただきました。
この“ハッピートイズ”はぬいぐるみ製作キットとして通信販売され、購入した方がひとつひとつ手づくりし、返送されて日本国内や世界各地で必要とする子ども達に配られています。
順次、ここトルコ・シャンルウルファ県に送られているぬいぐるみ50体を、まずは教室を運営している村にて配布しました。
ぬいぐるみが詰まった箱を開けた瞬間、子ども達の顔は驚きと好奇心で溢れていました。
食糧や衛生品、クラスでは教材を配られることがありますが、どんなNGOもおもちゃを配ることはありませんでした。
まさか、ぬいぐるみが配られるとは思っていなかったようです。
ほとんどの子ども達が、座ってひとりずつ渡されるのを待っていましたが、なかには待ちきれず箱に歩み寄り覗き込む子達も。
手づくりであるため、パッチワークの色合いも柄も、表情も異なるぬいぐるみ。 男の子、女の子で色合いに好みがあるかと少し心配していましたが、みんな渡されたぬいぐるみをもう自分のものとして嬉しそうに見つめていました。
友だち同士で、もらったぬいぐるみが会話しているように遊ぶ子ども達も。
状況も環境も厳しいなかで年少ながら責任を負って生きている彼らが、まだ子どもであることを、改めて実感させられた時間でした。
2011年に始まったシリア紛争。
いまだ緊急支援が必要となる状況から抜け出せない状況で、最も必要なのは食糧や衛生品、住居、生活物資です。
ただ、シリア人の子ども達が「子ども」として楽しめる瞬間を届けることも、彼ら、彼女らの発達において重要なことと、私たちは考えます。
私たちができない大規模な支援は他の支援機関にお願いし、他団体ではできない/やらないことを、ほんの少しずつでも達成していく。
子ども達の楽しい気持ちを、大切にしていきます。